第一話
著者:shauna


「えっと・・・これは・・・」
 
 眼前に広がる光景を見てドローアはただただそう言うしかなかった。

 穏やかな外見とは裏腹に、彼女は行く度の死線を掻き潜ってきたクラスの高い魔道士でもある。その証拠に彼女が使えない神界術と風の精霊魔術ならほとんどすべて使いこなせるし、どんなことでもそつなくこなすことのできる器量良しでもある。

 少々気の弱い側面はあっても、そうそう容易く呆然自失の状態に陥ることなどありえないのだ・・・。

 そんな彼女が、口を半開きにして目の前の凄惨な状況をただ呆然と見ているしかなかったという事実だけでもその光景がどれほど悲惨だったのかは言うに及ばない。

 一言で言うならそれは地獄絵図だった。

 磨きあげられ、コーティングされた大理石でできた様々な凹凸のあるその風景は一種の芸術作品を思い浮かばせる。

 そして、その窪みの様々な所に張られているのは濃密な腐敗臭にも似た匂いの漂う湯で、そこからはまるで霧のように湯気が風に流れている。


 

 そう・・これも一言で言うなら露天風呂だった。



 ―やがて・・―



 「酷い・・・」


 ドローアが最初に口にしたのはそんな言葉だった。
 

 そして、その言葉が表わすのはその場所についてではなく、そこに倒れている人影に対してである。

 一つ・・二つ・・三つ・・・全部で六つ。

 いずれの人影もそろって揃ってぐったりとしていて、まるで殺人事件でも起きたのではないかという程にその誰もが僅かに動きもしない・・。

 しかも、それらの人影はすべてドローアの見知った顔だった。

 「ミーティアさま・・・」

 一番手前の大理石に干されたTシャツみたいに引っ掛かっているのは旅の仲間にして『敬愛する人』で『親友』で『幼馴染』のミーティア・ラン・ディ・スペリオル・・。うつ伏せになっている為、顔こそ見えないが、あのオレンジのポニーテールは間違いなく彼女だ。

 で、その隣で湯につかりながら天を見上げているのはおそらくアスロック・ウル・アトールだろう・・。

 「だろう」というのはその表情があまりにも常日頃とかけ離れているからである。少し鈍臭さはあるものの、普段は好青年を絵にかいたような彼の姿はもはや微塵もなく、苦悶の表情を浮かべたまま、動く気配すらない。

 「ファルカスさん・・・」

 その左―こちらに背中を向ける形で倒れているのはアスロックの親友でもあるファルカスだ・・・。

 長い金髪を団子状に束ねてはいるものの、引きしまった体躯や整った顔立ちからも彼であることが伺える。

 そして、彼もまた、アスロックの隣で彼と同様に天を仰ぎながら苦悶の表情を浮かべていた。

 
 「サーラさん・・・アリエスさま・・・」


 そのさらに左・・・大理石の壁を隔てて、それぞれ背中合わせの形で寄り掛かっているのはサーラ・クリスメントとアリエス・フィンハオランだ。


 清楚でありながら行動派でもあるサーラと礼儀と節度を重んじるアリエス。

 普段なら、回復や破邪の術を得意とする“僧侶”のクラスであると共に、世界でも指折りの“魔法医”でもあるサーラと、将軍に武術を教える最高の武官である“将帥”と呼ばれるクラスと剣術の達人であるが故に“剣聖”の称号を持つアリエス。その2人も今は今は見る影もなく、ぐったりと目を泳がせながら少しも動こうとはしなかった。

 そして・・・・


 「シルフィリアさま・・・・」


 ドローアの足元にある温泉の隅の方・・・

 乳白色の湯にまるで水死体の如くうつ伏せでプカプカと浮いている一人の少女が居た。

 ドローアは手を伸ばし、彼女を仰向けに引っくり返す。

 一糸纏わぬ姿ながらも、湯で濡れた長い髪が体中にまとわりついて要所要所を隠している為、かろうじて丸見えという状況は避けられているが、それでも湯と同じ色の真っ白なその髪は湯船にまるで溶けているかの如く、その少女を幻想的な姿にしていた。

 
 シルフィリア・アーティカルタ・フェルトマリア・・・。
 フロート公国国際認可資格の中でも・・・いや、この全世界においても、最も難しいと言われる試験をクリアしないと習得できない、世界中の法律を使いこなし、どの国においても法務関連の最高責任者と肩を並べることが出来、さらに必要とあれば軍を統括することも出来る“執政貴師”という資格を持つ、名実ともに最高の貴族であると共に、ある理由から最強の魔術師でもある彼女・・・

 

 でも、そんな彼女も今は見る影もなく、ぐったりとして目を泳がせていた。


 以上、計6名・・・。


 4名の聖戦士と2人の聖蒼貴族がそこで滅亡していた。


 そして・・・


 ドローア自身その原因を知っていた。


 自分のせいだ・・・


 自分があんなことを言ったばっかりに・・・


 そして、この原因を作り出した元凶となるモノは、そこらじゅうに散らばっていた。


 自分の足もとにある白いモノ・・・


 一つや二つでは無い・・・


 ゆうに30を超える数がそこに転がっていた。


 これが、6人をこんな状況に追いやった元凶なのだ。


 一見、それは無害に見える・・そして、酒場に行けばどこでもみることのできる代物だ・・・。


 だが・・・


 今となっては、それも凶器にしかなっていなかった。

 白く、高質な白い陶器・・・



 それは・・・



 「あらあら!大丈夫ですか?」


 いきなりの声にドローアが振り向く。気が付くと後ろに一人の女性が立っていた。


 優しくおっとりとした外見に、「キモノ」と呼ばれる東洋が発祥の特殊な衣装・・。



 「待っててくださいね・・。今、人を呼んで来ますから・・・・」



 女性はそう言うとパタパタと浴場を後にしようとする。



 「あの・・・・」



 その女性をドローアが呼びとめた。



 「これって・・・その・・やっぱり・・・・」


 「おそらく、湯あたりと酔い潰れでしょうね・・。」


 「やっぱり・・・」



 苦笑いを浮かべながら、ドローアは走って行く着物の女性を見送るしかなかった・・・。



 あとがき

 メイド・・・もとい、毎度私のような人間の小説を読んでくださっている皆様ありがとうございます。

 シャウナです。

 「なんだよ!!!また手を広げやがって!!!”水の都”と”クーザ”の方はどうなってんだ!!!」
 とおしかりの言葉を受けそうですが、
 だ・・・だってしょうがないじゃないですか・・・やりたくなっちゃんたんだから!!!!

 ともあれ、ルーラ―閣下・・・
 毎度私の我儘に付き合わせてしまってすみません。いつも付き合っていただいて至極恐縮です。きっとこれからもシャウナは我儘を言い続けるのでしょう。まったく困ったモノですね <他人事のように・・・

 まあ、感謝と言えば、彩桜でキャラを借用させていただいているあくあ嬢やスペリオルシリーズで魔術や技や魔法具を考えてくれたRNC各位にも感謝を忘れてはなりません。いっそのことオリジナリティ無しで、全部人に作ってもらったモノを流用しようかと思っちゃったりします!!! <発作的な発言は人格を疑われるので控えましょう。

 ってなわけで、スペリオル新シリーズ”Varekai〜バレカイ〜”です。意味は直訳では「永遠」とか「何処までも」という意味なんですが、とある超有名サーカスの公演名からいただいてまして、それが「時間や場所にとらわれない何でも可能になる世界」というコンセプトで行われているので、そんな感じでラヌーバとは少し違うハッチャけ方が出来ればと思っています。

 ちなみにラヌーバはフランス語で楽しく騒ぐという意味です。<この場を借りての解説。

 では、どうか楽しんでいただけることを祈っています。



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